探究授業はどうやって学校に根付くのか
教務部長に聞いてみた
こんにちは。みらい留学コーディネーターの吉村です。
鹿追高校は探究の授業に力を入れています。
文科省の高等学校学習指導要領にもある通り、「総合的探究の時間」は日本全国、高校卒業までに3単位必修科目となっています。
より深く探究教育を実践するためにはそれだけではとても足りません。
学校全体で、常設されている教科の授業にも「探究的要素」をどれだけ組み込めるかが重要になってきます。
実際にどのように行ったのでしょう。
教務部長の豊田裕子先生に話を聞きました。
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ー 教務部長になって4年目だそうですね。豊田先生の経歴を簡単に聞かせていただけますか。
初任地はオホーツクの湧別高校でした。その後鹿追高校に来て、産休と育休の期間を経て2015年に復職してから9年目になります。
前任の高校は初任地だったので、すべての職務分掌を経験したいと思い、最後に教務をやりました。
鹿追高校に来た当初は生徒指導だったのですが、その後教務を担当するようになりました。
ー 教務とは具体的にどんな仕事をするのですか?
自分の授業以外で生徒には直接関わりませんが、生徒がきちんと学べるように、準備をして用意する仕事、とでも言えますかね。
いろいろなルールに則ってやらなくてはいけないので、自分の教科以外のこと、何が必修科目でどんな科目がどう配置されているのか、といったことを知る必要があるので、カリキュラムにはとても詳しくなりますね。
ー 鹿追高校の探究教育はどのように本格的に始まったのでしょう?
まず、本校の学校要覧、学校教育計画に書かれている項目を紹介させてください。
ー はい、お願いします。
まず、「校訓」というのがあります。これはこの学校ができたときからあるもので、本校では、
「自覚・実践・誠実」です。
その下に「学校教育目標」というのがあります。
さらにその下にさらに具体的な重点目標があり、これは校長が示します。
簡単にまとめると、本校では以下の8つです。
探究・課題解決能力
主体的に行動する力
しなかやか忍耐力・回復力
他者理解・最適マナー実践力
対話し、まとめて明確に伝える力
人とつながり協働する力
ICT活用力
国際標準語(英語)活用能力
探究的能力を重視することが、いちばん最初に書かれています。これらの資質、能力を日々の授業の中でどうやったら実現できるのかを考えました。
ー なるほど。「総合的な探究の時間」以外にも探究的な授業があるのでしょうか?
もちろんです。もちろん探究の授業は必修でありますが、各教科ではどのような観点でそれぞれの目標を育てられるかと考えました。そのために「単元配列表」を作りました。
ー 初めて聞く言葉です。どんなものなんですか?
これはもともと、各学校で作成するように奨励されているものなんですが、一般的には各教科でどんな時期にどんなことを学ぶのかを一覧にします。
これから何を学ぶかが一目瞭然でわかります。ここまではよくあるのですが、本校ではもう一つあり、自分たちの教育目標をそれを各教科の中でどのように学ぶのかを一覧にしています。
ー 8つの教育目標が上の横軸に並んでいて、その下、左側の縦軸には教科が並んでいますね。
そうです。交わったところを見れば、例えば探究能力は国語ではどのような分野でそれを学ぶか、というのがわかります。
ー 詳細な一覧表ですね。字が小さくて老眼にはきついです(笑)
大丈夫です。廊下には拡大した大きなものを貼っていますので(笑)。生徒や保護者にはけっこう見られているんですよ。
ー 各教科の先生たちとも相談しないとできませんよね?
はい。先生たちに、「こういうものを作るので、お願いします」と依頼したのですが、最初は「え?こんなの作るの?」という反応もありました。私自身も「面倒くさそう」と思いましたから(笑)。でも、これまでは自分の授業をやることが目的でしたが、これを作ったことで学校全体の教育プログラムを俯瞰して見られるようになりました。今この教科ではこういうことをやっているから、違う教科ではこんなことをやればいいのではないか、というようなことが見えるようになりました。先生たちもしっかり協力してくれました。
ー チームワークでの教育という感じがしますね。探究教育は指導要領でも強調されるようになりましたが、いつごろから変わってきたのでしょう。
2002年のゆとり教育導入で「総合的な学習の時間」が始まったときから脈々と受け継がれているものだとは思いますが、当初は学校現場にも戸惑いがあり、キャリア教育で済ませているようなところがあったようです。2022年から「総合的な探究の時間」となったのですが、その2年前くらいから、教務関係の研修会では探究でどんなことをやるかが話題に上っていました。
ー カリキュラム表を見ると○印が付いている科目がありますね。これは何ですか?
「学校設定科目」です。学校が「こういう学びをさせたい」と考え、常設科目では補えない場合に前年度に申請をして認めてもらいます。学校の特徴を作る大事な要素です。
ー ○印を見ると、時事問題研究、数学課題探究、実用数学探究、理科課題探究、理科の実験、生涯スポーツ、実用英語、カナダ研究、鹿追イノベーション学、鹿追サステナビリティ学、がありますね。(※令和5年からのカリキュラム)
この10個が学校設定科目です。常設科目ではできないことをやるので、独自性が必要です。
ー 探究的な授業に力を入れているのが伝わります。実際に探究に力を入れるようになってから、生徒は変わったでしょうか?
はっきりと変わりました。本校では、自分の考えでまとめて人の前で発表するというスタイルの授業が多いのです。これまでは、得意な子がやる、苦手な子はやらない、というような雰囲気があったのですが、もうそんなことはありません。あまりにふだんの授業で当たり前だからです。人の前で話す事に抵抗が無くなってきています。
他校とのグループプロジェクトがあると、慣れている本校の生徒がいつの間にかリーダーシップをとってまとめている、ということがよくあります。課題の抽出から最後の発表まで普通にできちゃう。私が高校生のときとは全然違います。
ー そこから実践的なプロジェクトもいろいろと生まれてきている訳ですね。生徒さんの活躍が楽しみです!ありがとうございました。
インタビュー後記
「単元配列表」というものを初めて聞いた。探究をきちんとやるべし、ということはどんな学校にも伝わっているのだろうが、それを実践に移すのは簡単ではない。鹿追高校に来て、探究と名の付く授業だけではなく、一般の授業の中でもさりげなく「探究的要素」が取り入れられているのが特徴的だと思った。とにかく授業が一方通行ではない。生徒によるアウトプットが前提となっている授業が多いので、座って聞いていればいい、とはならないのだ。
こういう授業文化を学校全体に行き渡らせるのはさぞかし大変だろうと思ったが、それには今回紹介したような教務の裏方のコーディネートがあってこそのものだったことがよく分かった。配列表を作ることが目的なのではない。作るプロセスにおいて、関わった先生たちが、自分たちの学校のカリキュラムを俯瞰できるチャンスを得られるのが重要なのだ。
(みらい留学コーディネーター 吉村卓也)