AIはザリガニを食べない
こんにちは。みらい留学コーディネーターの吉村です。
鹿追高校の理科のフィールドワークにくっついて、然別湖(しかりべつこ)に行ってきました。
この湖は北海道でいちばん標高の高いところにある湖です。大雪山国立公園の中にあって、すばらしい景観です。さすがに標高が高い(810m)だけあって、7月中旬、真夏の日差しは強かったのですが風は涼しく、気温も低め。気持ちよし!
もちろん、鹿追ジオパークの中にあります。なんてったて、鹿追町全体がジオパークになってますので。近くにはナキウサギもいます。↓こんなの。
でも今日はナキウサギじゃなくて、目指すはウチダザリガニです。これは北米原産の外来種で、日本のいたるところで繁殖し、在来種を駆逐しまくっています。然別湖も例外ではなく、先住していた日本ザリガニは駆逐され、貴重な水草はこいつのハサミでちょきちょき切られ、オショロコマ、ミヤベイワナという貴重な魚に影響を与えています。とにかく繁殖力がものすごいので、侵略的外来種ワーストリストの中に登録されています。
従来の生態系を守るため、ウチダザリガニの駆除が鹿追町によって行われています。ということで、そんなお話を町のスタッフの方に聞きながら、授業では駆除作業を手伝って学ぼう、という訳です。そして、最後にはこのウチダザリガニを食べよう!というプログラムです。
学校からバスで約30分、然別湖のほとりに到着。町の方から、上記のようなブリーフィングを聞き、さて湖畔に出発。と言ってもバスを降りたらすぐ湖畔。
事前に岸辺にいくつか仕掛けてあったカゴをチェック!
いくつかあるカゴには、ドッグフード、梅干し、鶏ササミ、キャベツなどの違ったエサが入れてありました。どうやらいちばん人気はササミだったようで、そのカゴにはウチダザリガニ、うじゃうじゃ入っておりました。
いくつかのグループに分かれてカゴを回収。取ったザリガニはバケツに入れて、後日のグループのために同じエサを入れてカゴを水中に戻します。
さて、次は捕獲した個体の計測です。
ウチダザリガニ、濃い紫のような黒いような色。町の方からオス、メスの見分け方を聞きます。裏返してお腹の辺りに小さな突起のあるのがオス、無いのがメスだそうです。微妙な違いです。
それから机の上の定規に当てて、頭から尻尾までの長さの計測。それらを記帳して別のバケツに入れます。
生徒たちは手袋を持ってきています。ハサミで挟まれたときに痛くないように。でも町の方は素手で触ってました。挟まれるのも慣れているようです。
計測するためには当然ザリガニをつかまなくてはいけないのですが、ここからが一騒動ですね。私も虫とか、この手の生き物を触るのは苦手なんで、生徒さんがキャーキャー言うのもよく分かります。
私が観察した結果では、女子の方が臆する事なく触っている印象あり。
男子は「ギャー」とか「ダメダメ」とか言ってる人多し。まあだんだんと慣れてくるようで、最後はみんな手早く計測できるようになっておりました。
計測した数はざっと150匹くらいかな?今日捕獲したものでは足りないので、スタッフの方が事前に取っておいたものが、大きなタマネギ用ネットみたいのに入って追加されました。
さて、計測終了。
近くでは、プロパンガスにつないだガスコンロの上で、大きな鍋にお湯がぐつぐつ沸いています。
そうです。ザリガニ君たちをここに入れるのです。
「お気にいりのザリガニを持ってみなさん来てくださ〜い!」
と、スタッフさんの掛け声。
みなさん、思い思いの個体を持って、鍋の周りに集合。
「うわ〜、なんかかわいそう」
という声もありましたが、けっこう躊躇なく、ポチャン、ポチャンと煮えたぎる鍋の中にザリガニが放り込まれます。
あっというまに、どす黒かった色がきれいな赤色に変わります。
最後は、バケツからドバッとザリガニ投入。ゆで上がるまで15分の休憩タイム。
観光客の方も多い場所なので、何やってるのかな?という視線を感じながらゆで上がるのを待ちます。
15分後に集合。茹でウチダザリガニの完成です。
どばっとザルに開け、水を切って、さあ試食です。
「アタマをねじってチョンパして、胴体を真ん中から割って、中の肉を取りだします。殻がけっこう固いから気をつけてね。爪のところも食べられますよ〜。でもミソは食べないでね〜」というスタッフさんの説明で、みなさん試食タイム開始です。
バリバリっとお腹から開いて身を取り出します。カニを食べてる気分ですね。
さてさてお味は、
「あ、おいしい!」
「エビよりいいかも」
という感想あり。
私も食べてみました。
ぱく。
ふんふん。……お、けっこう味がしっかりしていて、いけますね。
ちょっと小さいのでボリューム感がないですが、さすがロブスター。これにこじゃれたソースでもかけたら、けっこう素敵なお料理になりそうです。
それもそのはず、このウチダザリガニ、北海道では1930年に摩周湖に食用として入れられたのが、始まりなんだそうです。
え!摩周湖?!北海道庁のページにそう書いてあったので、間違いの可能性は少ないと思うんだけど、1930年、摩周湖ってそういう湖だったんですね。今は自然保護のため、湖はおろか、湖畔に近づくことさえできない湖です。時代ですね〜。
それがどういう訳か(人間が持ち込んだに決まっている)、然別湖にも入りこみました。侵略的外来種と言ったって、最初は自分たちが持ってきたものなのですね。
あと名前なんですが、最初にこのザリガニが日本で帰化種と認定されたとき、北海道大学の内田先生が持っていた標本に似ていたので、内田先生の名前を取ってこう名付けられたらしいです。湖の悪者のようになっているウチダ君ですが、内田先生に罪はありません。
さあ、ウチダザリガニのもぐもぐタイムも終わり、最後にちょっと自由時間で湖畔で休憩し、学校に戻りました。
スタッフの方のお話では、このような駆除を頻繁に行っているのですが、繁殖力が旺盛なためほぼ「焼け石に水」状態だそうです。恐るべし、ウチダザリガニ。
かといって放っておくとどうなるのか?
「もっともっと増えますね。湖じゅうウチダザリガニがうじゃうじゃ、という感じになります」
ということだそうです。イタチごっこならぬ、ザリガニごっこですね。
さあ生徒さんは何を学んだでしょうか。
「侵略的外来種」「環境保護」、なんていう言葉は教科書にも載っているでしょう。
ある資料によれば、日本における侵略的外来種のワースト10は、アライグマ、ヒアリ、カミツキガメ、ワニガメ、タイワンハブ、クロゴケグモ、オオヒキガエル、ヌートリア、アフリカマイマイ、ツマアカスズメバチだそうです。
ほお。そうなんだ。今流行りのChat GPTにも聞いてみました。
「日本の侵略的外来種、ワースト10は何?」
自信たっぷりに返事が返ってきましたよ。
アメリカザリガニ、カナダガン、イヌワシ、オオクチバス、ハクビシン、ニホンアナグマ、アカギ、ハクサンイチゲ、クサガメ、ニホンジカ、と言ってます。
この中のアメリカザリガニはウチダザリガニと思っていいのかな。
だが、ちょっと待てよ……。
イヌワシ、ニホンアナグマ、ハクサンイチゲ、ニホンジカなんかは外来種じゃないでしょう!
AIに頼りきるのは、こんなふうに危険なこともあるでの注意が必要です。最もらしい答え、しらーっと返してきますからね。
「ちょっとちょっと。この答え違うんじゃないですか?」と指摘しました。
そしたら、
「申し訳ありません、おっしゃる通りです。私の回答には外来種でないものも含まれている可能性があります。外来種についての情報は頻繁に更新されるため、特定の時点での情報が現在でも正確であるとは限りません」
だそうです……
素直でいいんだけど、ちょっとなぁ。
でもこういう指摘も、新しいデータもどんどん取り込んで、AIはもっともっと賢くなるんでしょうね。教科書だけの勉強でよければ、先生よりも的確な答えを瞬時に出してくれるAIに「授業」は取って変わられるかもしれません。
でもね、AIはいっしょに湖に行ったり、いっしょにザリガニ食べたりしませんよ。
ウチダザリガニの手触り、重さ、匂い、鍋に入れる前の命のもがき、食べたときの食感、しっかりした味。これはお座りして教科書読んでいただけでは絶対経験できません。それを文字で覚えたところで「理解」したことになるのでしょうか。
生徒さんの記憶の深いところに、ウチダザリガニはしっかり住み着いたことでしょう。少なくとも何かが「わかった」はずです。
さあ、またウチダザリガニを食べに、いや、取りに行こう!
(みらい留学コーディネーター 吉村卓也)