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オンライン公設塾はこうして生まれた その2

単なる受験のための塾ではない、塾を超えた「オンライン公設塾」を


前回はオンライン公設塾に使われているoViceについて説明しました。
今回からは、なぜオンラインで公設塾をやるに到ったか、関係者の話を聞いていこうと思います。


先生たちのオーバーワークからの脱却

鹿追高等学校 俵谷俊彦校長:
 私が校長として着任したのが2019年4月です。前年度まで「鹿ゼミ」という講習が行われていました。先生たちが、授業と部活指導を終えた後、夜の7時から9時半頃まで手弁当で生徒に勉強を教えていました。全くのボランティアです。実績は挙げていましたが、この「サービス残業」は「働き方改革」による道教委からの残業に対する指摘があったり、学内からも「さすがにおかしいのではないか」という声もあったと聞いています。そのため私が着任する前の2018年末には、このような形での「鹿ゼミ」は止めることを決めていました。
 保護者からは、「なんで鹿ゼミがないの?」という声も届きましたが、これに変わるものを示せないでいました。

ICTに本腰 WiFiを町の予算で整備、iPadも全員に貸与

鹿追町教育委員会 学校教育課長 宇井直樹さん:
 まず、オンライン公設塾を開設する前の状況を説明しましょう。
2019年当時、学校にはWiFiもなければ、生徒個人用の端末もありませんでした。当時の北海道内の高校では、どこもこんな状況だったと思います。
 俵谷校長から、「ICTを学校に導入したい」という強い要望がありました。まずは生徒用端末を入れて、「スタディサプリ」で勉強のサポートをという考えでした。
 この要望に応えるべく、2019年に町の予算で学校にWiFiを導入しました。コロナ以前の道立高校ではレアケースだったと思います。結果的に、これがコロナ禍では大活躍することになりました。
 それから最初に生徒用端末(iPad)を40台入れ、次の年には全員に端末を支給しました。これは現在も続いていて、鹿追町では小学校から高校まで、1人1台iPadが卒業まで無償貸与されます。もちろん家に持ち帰っても構いません。「自分の端末」として使うことができるようにしています。
 このICT整備がオンライン公設塾開設の下地となりました。これがなければオンラインで塾をやろうということにならなかったと思います。

 「鹿ゼミ」に変わるものとして、ふつうの公設塾はどうかということで、近隣の地域で行われているものを視察に行きました。やっぱりリアルな塾を開設するにはお金も時間もかかる。ちょっと無理だろうということになりました。

俵谷校長(左)と教育委員会の宇井さん

単なる講習ではない、自ら勉強するための「装置」

俵谷:
 
前任の奥尻高校校長(※注:北海道渡島支庁にある離島の高校)のときに、「Wi-Fiニーネー」という仕組みを始めました。オンラインでつながる兄さん、姉さんという意味です。距離は遠いけど、島の外にいる大学生などとオンラインでつながる。これを使った生徒たちの成長がすごかった。単なる「講習」ではなく、生徒が自分から勉強するための装置となるんです。
単なる「鹿ゼミ」の代わりではない仕組みが欲しかったのです。

宇井:
 
私はオンラインを利用して、どこかの業者と契約して運営してもいいのかな、と思っていました。ところが校長の頭にあったのは「探究教育」。とにかく探究教育につながるものにしたいと。探究のことなど当時は全く知りませんでした。私だけだったら、受験のためにオンラインで補講するだけの塾になっていたと思います。

生徒に与えたかったのは「あこがれ」の存在

俵谷:
 
地方に在住する子どもたちに、「あこがれ」の存在を与えてあげたい。それが私の強い思いでした。単なる勉強だけでない、かっこいい先輩の姿を見てそこから何かを学んで欲しい、という気持ちです。
 どんな人に頼んだらいいだろうと考えたとき、奥尻高校に調査で訪れていた北海道大学教育学部大学院生だった高嶋真之さん(※注:現藤女子大学講師)にたどり着いたのです。

(記:2023年9月16日 鹿追高校コーディネーター 吉村卓也)

……次回に続く